君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
アイツに内緒で、
俺の知らないアイツの情報を集めていく。
歩けるようになった俺は、
益々、アイツを強く意識せずにはいられなくなった。
ストーカーじゃないぞ。
アイツが気になってるから、
年上なのに、年下みたいで危なっかしいから。
親父の患者だから。
何でもいいから、適当に理由を決めては自分に言い聞かせながら
アイツが動くと俺も、こっそりと動いてみる。
その中で初めて知ったアイツのテリトリー。
車椅子に座って、一人で車輪を回しながら
アイツが訪れるのは、斎元弥と書かれた病室。
そこに入った後、アイツは暫く出てこない。
どんな奴がいるのか、気になって
アイツと、この中の病室に居る奴の家族らしき存在が出たタイミングで
入れ替わりに病室を訪ねる
そこで俺の耳に届くのは規則的に動いている、
人工呼吸器の機械音。
そして機械に繋がれて眠りっぱなしのガキが一人。
そいつは、ベッドの上起き上がるでもなく、
俺を見るでもなく、話しかけるでもなく、ただその場所に存在し続けるだけ。
こんな中に、アイツはあんなにも長い時間いるのか?
生と言う感覚が、無機質に響くだけの空間。
そんな場所に耐えられずに、
俺は逃げ出すように、ソイツの病室を後にした。
そのまま時間は過ぎて、8月も下旬に差し掛かった頃、
アイツにとって最悪の日が訪れようとしてたなんて
その時の俺には何もわからなかった。