君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
11.死と言う解放-理佳-
この間……託実くんの家族から、
入院生活を彩る、華やかな食器を貰った。
繊細に描かれた花の模様は
凄く綺麗で、見ているだけで心が華やいだ。
日常においてのほんの少しの変化が
私を刺激して、私の生活に色を添えてくれる。
もうずっと……
こんな刺激はないと思っていたのに。
このところ、病院から出されるご飯は
食器のせいもあって、毎日しっかりと食べられてる。
ご飯が食べられるって言うことは、
生への執着を意味するのだと、昔……左近さんは何度も教えてくれた。
その日も体調が落ち着いていた私は、
宗成先生の朝の診察の後、いつもの様に許可を貰ってお遊戯室でピアノお稽古を始める。
今日は午後から、
久しぶりに冴香先生のお稽古がある日だった。
そしてもう一つ……私が気になってるのは、
裕先生がセッティングしてくれた、私の演奏のお披露目の場。
沢山の人に聞いてほしいとか、
誰かの心に寄り添うたいとか、そんな大層なことは言えない。
ただ……純粋に、裕先生に聴いてほしい。
それが素直な想い。
生まれて初めて、一緒に演奏してくれた人だから。
私の音色に寄り添ってくれた人だから。
裕先生が傍に来てくれると……
心臓が壊れちゃうんじゃないかと思うくらい
ドキドキする。
ドキドキするけど……
今はまだその気持ちの正体がわからない。
ただ私にとって、存在が大きな人だってことだけは確か。