君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
だけどこの時間が、私が元弥君に触れた最期の時間。
この後、昼食・ミニコンサートと
続けていつもの様に就寝した。
あくる日、同じように元弥くんの病室へと
辿り着いた時、
病室前のネームプレートが外されていた。
元弥くんの病室のドアに手をかけて開けた途端、
私はその場で車椅子を動かすことが出来なくなった。
昨日までその場所に元弥君は眠ってた。
だけど今、そこに元弥君は存在しない。
両腕で自分を抱きしめて覚悟を決めながら、
車椅子をゆっくりと前進させる。
元弥君が眠っていたであろう部分に出来た
マットの窪み。
だけどそこには、布団も何もなくて、
沢山あった、元弥君の荷物も綺麗に姿を消していた。
……嘘っ……。
何度も何度も経験した。
死と言う名の退院。
闘い抜いて力尽きた友の旅立ち。
多分、元弥君もそうなんだろうっと
何となく感じ取れた。
泣きたいのに涙すら零れない。
次は私の番かも知れない。
この苦しみから解放してくれるのは、
優しい死の時間?
死はとても怖いけど?
死は終着点で……
優しい時間になるのかもしれない。
今まで苦しみ続けてきた
この場所で出会った、
友たちとは、
そうやって……別れて来た。