君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
『ミキちゃんは退院したのよ』
『コウ君は昨日、退院したのよ』
何度も何度も、聞いて来た言葉の
本当の意味を知った時、
ショックと同時に安堵したのも私なんだ……。
もう苦しまなくていいんだね。
ミキちゃんのお母さんが、
そうやって言ったから……。
この苦しみは、闘ってる私だから
強く伝わってくる。
『死』が本当の意味でその苦しみから解放してくれるなら、
その旅立ちに心から見送ってあげたい。
そう思う私、
そう言い聞かせる私。
だけど……どれだけ、
自分を納得させようとしても
『死』と言うやがて来る瞬間を
どうやって自分で受け止めていいのかなんて
答え何て見つからない。
答え何て今も見つからないけど、
確かに今、言えることは……
ずっと戦友だった仲間が、
また一人、
解放と言う形で退院してしまったと言うこと。
元弥君の眠っていたマットにそっと手を伸ばして、
何度も何度も、彼が眠っていたその場所を
ゆっくりと撫でていく。
元弥君、今頃……全てから解き放たれて、
夢を叶えていますか?
空を飛ぶ、飛行機の操縦士になりたいって
夢を語ってくれた元弥君。
飛行機よりも早く、
大好きな空を飛んでますか?
理佳もね……多分、もうすぐ……
その時が来るんだと思う。
怖いけど……、
その時が来たら、どう思うんだろう。
ずっと我慢してた、海に真っ先に出掛けて
砂浜を駆け巡れるのかな?
運動場を全速力で、
何周も何周も走り回るのかな?
だけどね……だけど元弥君。
なんで、残された私は
こんなにも苦しくて
辛い思いしなきゃいけないのかな?
もっともっと、
元弥君と話をしたかったよ。
外国に行って、移植手術をして
元気になった元弥君と、会いたかったよ。
いろんな思いが次から次へと溢れ出してきて、
自分の胸を苦しくさせる。
涙へが次から次に溢れだして、
止まらなくて……それはやがて息苦しさにと変化していく。
息苦しさに胸を掻き毟りたくなりながら、
必死に息を吸おうとしていくのに、
焦れば焦るほど、上手く出来なくて
そのまま力が抜けていく。
視界が真っ暗に寸断されていく。