君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



「託実、智樹と一緒にフォームチェック。
 その後、スタートダッシュ。

 稔、もも上げの50Mの後、
 200M加速」




久信先輩に言われるままに、
その後も黙々と練習は続けられる。


練習が終わる頃にはグラウンドを取り囲んでいた
女生徒たちの姿もいつの間にか居なくなっていた。





練習の後、クールダウンをして更衣室へと向かい鞄の中に制服を含めて突っ込むと、
トレーニングウェアのまま、校舎でメンバーと別れて、ジョギングしながら帰宅。



自宅に荷物だけ放り込むと、夜の日課でもある
学院近くの森の中を走りに出かける。




筋肉の使い方、呼吸のやり方、フォームの確認。

そんなことを一つ一つ丁寧に意識ながら、
走り続ける時間。





今が一番大切な時期だから、
そして……俺も結果を出したい。







優秀すぎる身内が、傍に居るのは
ある意味プレッシャーも大きい。




裕真兄さんは、今期の神前悧羅学院校悧羅校最高総。
悧羅校においての幼等部から、大学院部までの頂点を
理事会に任された存在。

そして裕真兄さんの副総代を務める【最高総秘書】のポジションにあるのは
一綺兄さんの部活でのパートナー・三杉光輝【みすぎ こうき】。

一綺兄さんもまた、学院最高書記として昂燿校(こうようこう)・悧羅校(りらこう)・海神校(わたつみこう)の
三校の生徒総会においての書記のポジションであり、三杉さんと一緒に中等部・高等部の6年間、
神前悧羅学院テニス部を、全国大会で優勝させた経歴の持ち主。


周囲が結果を出す奴らばかりだと、
俺自身も、結果を出さなきゃと焦る気持ちがセーブできない。



そして中学生活が始まって、3年目の今年。
ようやく俺も、全国大会への切符を手に入れることが出来た。


だからこそ、このチャンスにきっちりと結果を持たせたい。



それがまた、悪循環を生み出すことを感じながらも
俺は今をもがく様に必死に息を吸いながら前進することしか出来ない。






そして……俺自身を追い込むように、
自分を痛め続けるように、練習を続けた俺の体は夏休み前に悲鳴を上げた。




左膝に痛みを感じるようになった足。
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