君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
再びの眠りから目覚めた時には、
もう両親は帰った後みたいで病院には居なかった。
「理佳ちゃん、どうかした?
起きちゃった?」
夜勤担当が、左近さんだったのか
仕事中の手を止めて
隣の私が眠る場所へと近づいてくる。
「うん……」
「今は苦しくない?」
「はい……」
「あっ、これね。
元弥君からの手紙。
お母さんから理佳ちゃんに渡してくださいって
私たちが預かったの」
そうやって、手渡された1枚の封筒。
封筒の表には、
理佳へっと綴られてあった。
「後は、こっちは宗成先生からの伝言。
理佳ちゃんが、帰りたいって思うなら
起き次第、自分の病室に移動させていいよって。
今日は心電図とかを外すことは出来ないけどね」
そうやって告げられた言葉に、
私は「帰りたい」と小さく告げた。
この場所はカーテンだけで覆われてる
開かれたガラスの中の世界だから。
ちゃんとした病室で落ち着いて過ごしたい。
それに……私の中の、
何時もの時間を取り戻したいから。
「じゃあ、お引越し」
左近さんは、車椅子を持ってきて
ゆっくりと私を、ベッドから移動させると
車椅子を押しながら病室へと連れて行った。
病室のベッドテーブルには、
見慣れない紙袋。
左近さんはそれを一度、退けると私を
車椅子からベッドへと移動させて、
ゆっくりとテーブルを私の方へと戻した。
「ねぇ、これ?
何か知ってる?」
託実君が眠っているから、
内緒話のトーンでひそひそと、
左近さんに話しかける。
「何だろうね。
朝になったら、
紙袋を開けて確かめてみたらいいんじゃない?
さっ、理佳ちゃん。
もう少し休みなさい」
そう促されると、
私はもう一度、ベッドに体を倒した。
何時かは訪れる『死』。