君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
「託実、遠慮しなくていいよ。
頼み事だろ?
どうした?理佳ちゃん狙うの?」
理佳ちゃん狙うの?
ストレートに聞かれすぎて、
言葉を失う俺に「図星だね」っと
電話の向こう、隆雪は笑った。
「で何が欲しいの?
俺の方は練習時間終わってるし、
今から怜さんたち、SHADEの練習に入るから
俺は邪魔できないしね」
「メールで送る機種の、携帯ケース欲しいんだ。
兄貴らがアイツ用の携帯用意したから」
「あぁ、グランたちが携帯をね。
それで焦ってるんだ、託実。
けど託実って、それくらいされないと
行動起こせないよね。
一度動き出すと、爆発的に行動始めるんだけどね。
了解、託実に変わって買いものしてきてあげるよ」
隆雪との電話の後、アイツの機種の品番を隆雪へと送信する。
その後も、向かい側のベッドがきになりながらも
二学期用の課題を必死に、ベッドの上でこなす。
「託実、頼まれたもの」
そう言って小さな紙袋を手渡す。
「thank you」
紙袋の中身は、先に隆雪からのメールで知ってる。
準備は整った。
だけどアイツは一向に病室には戻ってこない。
アイツが気になって、隆雪が帰るのに合わせて俺も
病院内を歩く。
とりあえず隆雪をエレベーターまで見送って、
その後アイツが行きそうな場所へと向かった。
お遊戯室はこの時間は却下。
時間は20時を過ぎようとしてる。
ってことは、アイツは病室に戻りたくても戻れない?
そんな不安か過る。
リハビリの成果もあって、少し歩きやすくなった
その足で向かうのは、アイツが居座っていた斎元弥の病室。
そこに辿り着いて絶句した。
この間まで、斎元弥の病室だったその部屋に、
アイツの名札はなく、新しい人の名前が入ってた。
思わず中から扉が開いて「貴方は?」っと
ばあさんに尋ねられる。
「すいません。間違えました」
そう告げてお辞儀すると、
逃げ出すように何処かに居るはずの親父の姿を探しながら歩く。
だけどそう言うときほど、親父の姿は見つからない。
「託実くん、どうしたの?
もう就寝時間前よ」
担当ナースの左近さんが俺の姿を見つける。