君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


「なぁ、まだアイツが病室に帰ってこないんだけど。

 俺の向こうのベッドのアイツ。

 だからわざわざ探しに来てやったのに、
 俺が怒られるの、癪に障る」

「あらっ、託実くんそうだったのね。

 ごめんなさいね。
 理佳ちゃん、体調を崩してしまったから今は病室に戻れないわ。

 だから託実くんも、心配かもしれないけど
 ベッドに戻って休みなさい」


そう言って俺の前から立ち去ろうとする左近さんの後ろ姿に問いかける。



「なぁ、斎元弥って奴どうなったの?
 アイツの友達だったんだろ」

「元弥君は、退院したのよ」



そう言って俺に話し返す、
左近さんの表情が少し曇る。

それが……どんな意味なのか、
俺にも気が付けるようにわざと、
表情に出してくれたのかもしれない。


「だから名前なかったんだ……。
 アイツは知ったの?」

「えぇ。

 だから理佳ちゃんが元気になって戻ってくるまで
 少し待っててあげて」



そう言うと、
今度こそ左近さんは仕事へと戻っていった。


自分のベッドに戻った後、
アイツのベッドに、携帯と携帯ケースの入った紙袋を置く。


その時、隆雪が買ってきたミニ紙袋の方にもう一つ
小さな袋が入ってるのに気が付いた。


引っ張り出したそこには、
お揃いの天然石のストラップ。


ストラップの入った紙袋には、
隆雪の文字で(託実と理佳さんへ)っと書かれてた。


チャーム部分には、貝殻をモチーフにした飾りがついてる
ストラップ。


その一つを俺の携帯につけて、
もう一つを、理佳の携帯の箱の中に忍ばせて、
再度、枕元に置きなおした。



そのまま俺は就寝時間になって、
一人、病室で眠った。



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