君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
私……何も知らなかった。
この子が、こんな風に優しさを
持ち合わせてる子だなんて考えようともしなかった。
「ほらっ、拭けよ。
涙」
手に握らされたタオル。
何時の間にかベッドの上に置かれた
懐中電灯の灯りは、
窓側の壁に優しい光をあててた。
「あのね……。
友達が亡くなったの……。
この病院で出会って、
ずっと一緒に治療も頑張って来た。
もうすぐ……移植に行くことも決まってたのに。
沢山の人に愛されて、必要とされてる
そんな友達だったの……」
しがみ付くように、吐き出すように、
泣きじゃくりながら、その人肌にしがみついた。
「友達が亡くなる辛さが、
俺にはわかんねぇよ。
俺んち、祖父ちゃんたちもまだ元気だからさ。
誰かが亡くなる悲しみって、
俺には正直わかんねぇよ。
けど、アンタの友達。
アンタにそんなに沢山、泣いて貰って悲しんで貰えて
喜んでんじゃねぇ?
喜びながら、
多分……そいつも悲しんでると思うぜ」
悲しんでる……。
託実くんには、そう言われたけど
今の私は、元弥くん心を考えることなんて出来そうになくて。
何も答えられないまま、
託実くんの手を引き寄せて、
抱えるように眠りについた。
人肌が優しくて……。
翌朝、左近さんの声が聞こえて
目を覚ましたとき、私の傍には託実くんが居て
かなりびっくりした。
慌てて体を起こそうとして、
左近さんに嗜められるのと同時に、
託実くんに、肩を抑えられた。
「お前さ、寝とけば?」
そんな言葉を残して、
託実くんは自分のベッドへと戻ると
掛布団を被って寝始めた。
「おはよう、理佳ちゃん。
昨日、沢山泣いたんだって?
目が赤くなってる。
傍に居てあげられなくてごめんね。
だけど、隣に託実君が居てくれたのね」
そう言って、朝の検温チェックとかを済ませた後
左近さんが退室した後、眠る前に枕の下に置いた
一通の封筒を手にする。
元弥くんからの最期の手紙。
この病院に来て、
沢山の出逢いと別れがあった。
だけどこうやって手紙を遺されたのは
初めてだった。