君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】




「うるせぇー。

 録音しててノックされたくなかったら、
 ドアに『只今、録音中』とか貼っとけよ。

 お前が中で何してても、わかんねぇだろ。
 外からじゃ見えねぇんだから」




売り言葉に買い言葉。

いつもの様にポンポンと言葉を言い放った俺に
今日はやけに素直?なアイツは、納得したように頷いた。




「そうかも。

 そうだよね、ドアが閉まってるんだから中から作業内容なんて見れるわけないよね。
 ごめん」 



素直すぎる理佳は、気持ち悪い……。




心の中でそんな風に思った俺は、
ばれないようにしようと思いながら、俺もアイツにはノックをしたことを謝った。




「んで、録音中みたいだけど入っていいの?」

「うん、別に構わないよ」

「演奏してるの、何の録音?」

「曲名ってこと?」

「そう。
 裕兄さんと演奏してるんだろ」




裕兄さんの名前を出すと、
理佳の表情が明るくなるのにちょっとムッとしながら
会話を続ける。



「今はヨハン=パッへルベルのカノンと、エルガーの愛の挨拶かな。
 まだ裕先生とは一緒に演奏したことないんだけど」



そう言いながら、アイツはピアノに向かって座ると
パソコンで録音してるのか、起動しているソフトのボタンを押しながら
ゆっくりと演奏を始めた。


演奏しているアイツの様子が、パソコンに繋げられたデジタルカメラを通して
動画の撮影が行われる。






あぁ、この曲聴いたことあるなぁー。




その程度のレベルでしか、俺は音楽に触れあってないけど
アイツの演奏が凄いってことだけはなんか、感じて取れた。



凄く優しい表情で語られるように紡がれる演奏。


だけどアイツの手元に視線をうつすと、
これでもかってくらい、忙しなく動き続ける指。


だけどそんな指先の動きに戸惑いも、
間違いもせずにアイツは、演奏を続けていく。


一曲演奏が終わると、
アイツは録音ボタンを解除した。



息をするのも忘れたように、
静かに物音たてずに硬直しかかってた俺の体を
ちょっとリラックスさせるように動かす。



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