For Blue
「おっと、そろそろ僕行くね」

「もう行っちゃうの?忙しいのね」

「ちょっとね。折角元気になったからさ、今年は満月祭(まんげつさい)の準備を手伝うことにしたんだ」


そう言って彼は再び街の方へ歩き出した。


「病み上がりなんだから、無理しないでよ」


あたしの言葉に彼は振り向いて笑顔で手を振った。


「そう……今年ももうそんな時期なのね」


彼の背中を見送りながら呟いた。

彼の背中、あたしの知っている頼りない、今にも風に飛ばされそうなか弱い面影はもうなかった。
一人の大人の、しっかりとした後ろ姿。


時間は確かに動いている。


毎年この時期はやってくるけれど、あたしの姿も変わった。

あたし自身も変わっていかなきゃダメね。


満月祭は真夏の満月の日と前後の三日間で行われるbleu de jardineのお祭り。
とても盛大に行われるから、この三日間だけは黒猫の本数も増えて下からの観光客も沢山やってくるの。
あたしにとっては一番忙しい三日間。
忙しいけど、あの時みたいな失敗はもうしない。

いつもと同じ、完璧な日々をこなしてみせるわ。

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