For Blue
「リオン!!」


あと数歩で列車に乗り込む、というときに門の方からレディの声が聞こえた。

今まで聞いたことのない張り詰めた声音に驚いて、リオンは反射的に振り向いた。


リオンにとって、レディは大人びた、落ち着いた印象の女性だった。
それが、今にも泣き出しそうな悲痛な表情をしている。

レディは必死の形相で、何かを叫んだ。

しかし、その言葉はbleu de jardineに時を告げる鐘の音と、人々の歓声に掻き消された。


鐘の音は祭の終わりを告げる合図。
その音に合わせて満月と同じ色の紙灯籠を人々は空に放つ。

遠くから眺めれば、それはまるで星の生まれる瞬間のような美しさで、舞と共に満月祭に訪れる者達の楽しみの一つでもあった。

そして今宵、その時間は列車の発車時刻でもあった。


レディのことも気がかりではあったが、この日この時間と決めていた。
躊躇いはしたがリオンは列車へと飛び乗る。


しかし、リオンの足は列車の床に着地することなく、吸い込まれるようにすり抜けた。


レディはそれを見ることに耐えられないと言わんばかりに、両手で顔を覆った。


「ここの人間は、列車には乗れないの」


鐘の音で消えた言葉は、リオンに届かない代わりに、レディの心に鋭く刺さった。


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