For Blue
小母さんは「そう」、と感心とも呆れともとれそうな相槌をすると、距離を詰めるように俺の座席と小母さんの座席の間についているひじ掛けに、ぐいと身を乗り出した。
よく日焼けした、肉付きの良い肩が当たりそうになる。


「あそこは綺麗だけど全部幻なんだよ?」


まるで小さな子供に確認するようにゆっくりと言った。
言い聞かせるような言葉と、俺を見る小さいけれどぱっちりとした目の奥の憂いのある疲れに、この小母さんは何かBleu de jardinに期待をしたことがあるのだろうかと不意に思った。

そして、その期待が叶うことはなかったのだろうと。


「知ってます。小さい頃から聞かされてますから。」

縮まった小母さんとの距離を調節するように、俺はより窓側へ寄った。


「ちょっと、行ってみたくなっただけなんです。……夏休みなんで、暇で」


小母さんはすっと身を引くと、「夏休みねえ」と納得したように呟いた。


「そんなに長い休みとれるのなんて学生のうちだけだからねえ。
時間があるならそういうのもいいのかもしれないわね。物好きとは思うけど」


笑いとばすように言った。
後から冷静になってみれば、結構失礼なことを言われたのかもしれない。

けど、気にならなかった。
どんな大人も大抵は、自分の予期せぬ行動を取ろうとする子供には
現実を見据えることが最良だと訴えるから。
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