For Blue
ステイションの鉄柵の前で自転車を止め、カゴからカメラを取り出す。

今の会社に就職をして、初めてのボーナスで買ったお気に入りの一眼レフ。

仕事は忙しくて残業なんて当たり前だけど、上司や同僚との仲は良いし仕事もやりがいがある。
疲れるけど楽しい。
だからこそ、お気に入りのカメラだ。

私はいつも通り、自分の好きなアングルで撮れる場所に立つと上空に向かってカメラを構えた。
構えたけれど、シャッターは切らなかった。


――bleu de jardineに行く?


母の言葉が頭の中で回っていた。

掲げたカメラを腕の中に戻す。


多分、母は私を心配して言ってくれたんだ。
私がbleu de jardineの写真を撮り続けているのが、母にはきっと私があの場所に未練があるように見えるのだろう。

溜め息が自然とこぼれた。

視線を真正面に戻す。
目の前は穏やかな海。
紺色の水面が静かに波を作り出して、埋め立てて作られたこの道の縁に打ち寄せていた。


水が弾ける音を聞きながら目を閉じて、もう行かないと決めた日の事を思い出す。

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