For Blue
次の日の朝、再び港に出向いた。


その時にはもう、カメラをいつもの場所で構える必要はなかった。
そんなことをしなくても一目で分かった。


Bleu de jardineが大きくなっている。



違う、近づいているんだ。



私はただそれを呆然と見ることしか出来なかった。

肉眼で分かるほどの速さでbleu de jardineはこっちに近づいてきている。

まるで、力をなくして墜落するように落ちる速度はだんだんと勢いを増す。


やがて私以外にも異変に気が付いた街の人達が騒ぎ出し、辺りはbleu de jardineの近づく速さ以上の速度で喧騒が広がっていった。


視界一杯にここの海とは違う鮮やかな青色の海が映し出される。


この海が街に全て落ちてきたら。

あの時計塔や、レディ・ゲートが降ってきたら。

その後の惨劇は容易に想像できた。


人々が悲鳴を上げながら逃げていくのが背後に聞こえる。
私が港にいることに気が付いて、戻れと声をかけてくれたのも聞こえた。

でも、私は動けなかった。


怖い。
それもある。

あの海に飲み込まれたらを想像すれば眩暈を起こしそうなほどに底なしの恐怖で気が遠くなる。

でも、それ以上に私には目の前の鮮やかな海が美しくて、懐かしくて逃げたくはなかった。



気が付くと私は、降りかかる鮮やかな青色の海に、夢中でシャッターを切っていた。

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