For Blue
しかし、それで逃げようと走り出した時にはもう遅かった。


走り出した真奈美の足元に出来る影でさえ、深い青色に見えるほどに海は近づいていた。

頭上から雨のように滴が降りかかり、磯の匂いが一層濃くなる。

真奈美自身も己の終末に覚悟した。

そして、迫る海は街を飲み込むはず――だった。

あの光景を見た誰もがそう思っていた。


しかし、海は街を飲み込む直前で忽然と姿を消した。


その代わりに街を埋め尽くしたのは色とりどりの金平糖。

流星群のように降り注ぎ、街を鮮やかに染めた。

それもまた街に降りたのは一瞬で、その後は海も、人も、建物も、bleu de jardineは跡形もなく消えて街はあっさりと日常を取り戻した。


いつもと違うのはこの街の上には青空しか無なくなってしまったという事。

突然戻ってきた日常に、真奈美は理解が出来ずにしばらく呆然としていたが、やがて逃げ出そうとした時に放り出したカメラを拾い上げて、帰路についた。
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