For Blue
『真奈美へ』


漢字をあまり書き慣れていないような、少し歪な文字を真奈美は知っている。

しかし封筒には今まで何も書かれていなかった。
それが急に浮かび上がるかのように現れていたのだ。

瓶からそっと手紙を取り出す。

鼓動の高鳴りは最高潮を迎えていた。


bleu de jardineの物は、外に出れば幻になって消えてしまう。
書いた文字でさえ。

これまでずっとそうだった。
こらからも、そうやってやがて記憶からも消えてしまうのだと思っていた。

封筒に封はされておらず、便箋はすぐに取り出せた。

便箋を開く前から分かる、そこにあるうっすらと写る文字。

便箋を開く手が震える。
握りしめていた耳飾りを落としそうだった。


真奈美は心のどこかでいつかは、と思っていた。

ふと、ここに書かれているであろう文字が見える日が来るかもしれないと。

しかしそれは無い物ねだりのようなものだった。

奇跡など、期待してはいけないと子供の頃から教えられてきたのだから。

本当に便箋の中に文字が書かれていたら、奇跡を信じてしまう。

恐怖にも似た緊張を覚えた。

信じたい。
けれど信じて叶ってしまったら、またその先を期待してしまう。


願いと否定が心の中に混在していた。
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