For Blue
開いた便箋には見覚えのある、懐かしい文字。


『親愛なる真奈美へ――』


仰々しい書き出しから始まっていた。


『ここから出てマナに会ったら一番最初に何を渡そうか悩んで、bleu de jardineのものは消えてしまうから、君から前にもらったレターセットで手紙を書こうと思いました』


決して上手とは言えない文章が並んでいる。

しかし、その言葉にどれほどの思いが込められているのか。

文字を追っていく真奈美には十分に伝わっていた。


読み終えた真奈美は部屋を飛び出した。


『僕の手を離して、君が他の観光客と一緒に列車に乗り込んでいくのを見るのがいつも辛かった』


靴を履くのでさえもどかしく思えるほど気が急いていた。
玄関の扉を開けて走り出す。

秋の気配を運ぶ肌寒い風と、まだ夏の名残を思わせる白い真昼の日差しが待ち構えていたかのように真奈美を包んだ。

その祝福をも振り払うように強く強く駆けて行く。
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