For Blue
真奈美はその先にある、ありもしない奇跡を、いつの間にか強く願っていた。


海岸線に沿って作られたコンクリート製の防波堤。

その無機質な壁が見えてきたところで真奈美は足を止めた。

荒い呼吸を整えながら辺りを見渡す。
港まで続く、人気の無い道。

降り注ぐ陽光の下、波だけが生きているかのような錯覚を覚えるほどに静まりきった、いつもの寂れた街並み。


ゆっくりと、港まであと少しの距離を歩き出した。

一歩進むたびに前を見て、後ろを見て、街へと続く道を見て、心の中に芽生えた『可能性』を探した。


やがて、ステイションに続く一本道の前に差し掛かったとき、風に乗って真奈美の耳に声が届いた。


「マナ……?」


振り向くと、道の上に一人の青年の姿があった。

驚きの表情を浮かべるその青年を、真奈美はよく知っている。
記憶の中よりも少し大人びて見えたが、絶対に見間違うことはない。


「――リオン!」


もう何年も口にしなかった名前を呼んだ。


何十回、何百回と呼びたいと願った最愛の名を。


真奈美は、海の上に建つその道を走り出す。


会いたかった。

寂しかった。

よく無事で。

ずっと待ってた。

愛してる。


何から声に出すべきなのか、考えられなかった。
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