For Blue
「俺達、よく無事だったよなあ」

「うん」


少年はもう一度少女の方を向いて尋ねる。


「……寂しい?」

「少し、ね」


少年の方を向いた少女は微笑んではいたが、どこか憂いを含んだ瞳で頼りなげに少年を見上げていた。


「俺も少し、寂しいかな。たとえ幻だって、目の前に奇跡はあった。それが……もう見えないなんて」


少女の表情に苦笑いを浮かべながら、少年は何もない海に愚痴こぼすようにぽつりと呟いた。


パシャン


突然、海の中から魚が一匹躍り出た。

鮮やかな青色をした、宝石のような鱗の魚。

その鱗も、纏う水しぶきも、太陽の光を反射して、何よりも美しい輝きを二人に見せた。


――さようなら。


少女の耳に知っている声が聞こえる。
それは少女にしか聞こえない声。

飛び跳ねた青色の魚は確かに少女を見つめていた。


――ありがとう。


少女も青色の魚の瞳をしっかりと見つめ、心の中、ありったけの気持ちをこめて囁いた。


魚は、聞き届けたと言わんばかりに大きくその身をくねらせ、一層煌びやかな鱗を光らせると、加速をつけて海の中を目指した。

そして、海面へ触れる直前に一粒の金平糖に姿を変えて、消えていった。


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