LAST SEX
「ねね。奈美恵さん、街コンとかお見合いパーティー行きませんか?」
「え?」
いきなりの提案になにを言っているのか、一瞬わからなかった。
お見合いパーティー。興味はあったけれど、結婚にガツガツしてしていそうなイメージがあって、自分のプライドが邪魔をしていた。しかも提案をした香織とは『私』は年齢差がある。そんなイベントは、年齢制限だってあるだろう。同じ婚活パーティーに行くのは、少々無理があるのではないかと思うのだ。
「 これですよ。これ」
香織は、そういうとスマートフォンを鞄から取り出した。画面を何度かタップする。目的のサイトを見つけると、二本指で画面上で広げた。そこには、【大企業社長・上場企業、商社勤務・医師・歯科医師・年収六百万円以上の男性】という、タイトルが表示されている。
「これは嘘っぽいですよねー」
香織の感想に同感だ。こんな都合の良い条件なんかない。大体こんなに地位も金もある男が、お見合いパーティーになど頼ることはない。
同期の男の医師は、こんな条件の元に来る女なんて、金目的でしかないという話をしていたことを思い出した。自分ではなく『医師』という国家資格と結婚したいのだと力説していた。とはいえ、一部の馬鹿な医師は『医者だからモテる』と言っていたよな。当のあんたもそういってなかったっけ?『私』はその彼にそう告げると、彼は、「女医は頭のいいことを鼻にかけて、男を馬鹿にしてるよな。俺だってご免だし、周りの奴もそう言ってる」低能な捨て台詞を言ってその場を去っていった。
思い出すと、腹正しい男だ。医者としても使えないくせして。『私』はくだらない事を思い出して、大声で叫びそうになった。
「ちょっ、これみてくださいよ。料金のとこ」
香織は『私』の肩をバンバンと興奮気味に叩いた。画面を覗くと【男性料金三万円、女性料金二万七千円】とあった。場所は都内でも超有名な高級ホテルだ。
「こんなのみたことないですよ。大体が女性は無料か低料金ですもん。男性だって一万円は越えないし」
香織はそのパーティーの詳細を読み落とす事がないようにと、懸命に目で追っていた。酔いはとっくに覚めているようだ。そして、『私』も自分のスマートフォンを取り出し同じサイトにアクセスした。
「会社は初めて聞くようなとこですけど、私もそんな詳しくないですしね。レビューも悪くない。怪しいかもしれへんけど、行ってみる価値はありそうじゃないですか?」
「そうかもしれないけど、レビューなんて当てにならいよ」
香織の耳には私の声が届いていないようだ。なにやら楽しそうだった。
サイトの内容は、都合のいいことばかり書いてある。当たり前といえば当たり前だ。それを信じる人が世に中多いんだろうなと、素直な人が多いんだろうなとボンヤリ考える。同時に自分は、素直になれない腐り切った女なんだろうかと思った。
「申し込み完了ー」
「はっ?」
香織はニヤニヤが止まらない。
「次の次の土曜日ですよ。二人分申し込みしちゃいました」
いたずらな笑顔で登録完了画面を目の前に差し出した。その時『私』のスマートフォンにメール受信を知らせるサウンドが短く流れた。慌てて受信ボックスをあけると、登録ありがとうございました。料金確認しました。当日を楽しみに‥なんたらかんら‥最後の方の文章を読むまでもなかった。
「転送しましたよ。お金は私のカードから立て替えときました」
絶句だ。あの短時間で、そんなに早く打ち込めるのかという感心したのと、歳の差を痛感した。
「ちょっと、勤務どうするのよ?」
勝手に申し込むのは、百歩譲って良しとしよう。『私』も興味なかったわけではないし。その証拠に自分のスケジュールを思い出そうとした。
香織は花柄のシステム手帳を取り出しすと、挟んである綺麗に折りたたんだコピー用紙を広げる。この辺りも、香織のきっちりとした性格が表れていた。
「あ‥うん‥大丈夫ですよ。奈美恵さんは」
「私はって?香織ちゃんはどうなの?」
香織はウフフと一笑する。
「ガッチリ夜勤です。なので、奈美恵さんが行ってそこで彼を見つけて、その彼の友達を私に紹介する。料金は半分払いますから、私の為にも行ってきてください」
断わることが出来ないオーラが醸し出されていた。厄介な事に香織は本気も本気だ。
「勤務変わるわよ」
「ダメです。奈美恵さんは、前の日が夜勤です。私はその日は用があるので、勤務は変われません」
やけにハッキリ言う香織に、実は勤務予定を覚えていたのではないかと疑惑が浮かんだ。返す言葉を探している『私』を待ちながら、香織は人参を頬張った。
「わかった。でも、彼が出来るかは保証できないからね」
断わることが出来ない『私』が観念すると香織の目が輝いた。酒で口の中に残っていた人参を流し込むとちょっとむせながら、そうこなくっちゃと言わんばかりに、テーブルを三度叩く。
「奈美恵さんなら大丈夫。可愛いですもん」
なんだか素直に喜べない。開き直って『私』も大好きなすじ肉を口の中いっぱいに入れた。周りの目は気になりながらも、こうやって食べるのが好きなので、考えないようにする。
すじ肉にタップリと味が浸み込んで、油抜きも完璧。口の中でとろけてなくなる、まさに完璧なおでんのすじ肉だ。後に引く味をも最後まで堪能して、サッパリと冷たい酒で流し込む。あゝ美味しい。と、一呼吸おいた。
「確信犯でしょ?」
「確信犯の使い方間違ってますよ」
「それが転じて、分かってて悪い事するときにも使うの」
香織は大笑する。
「悪い事じゃないですよ。ねー大将」
カウンター越しにいた大将がガハハと笑う。
「さ、さ、奈美恵さん、乾杯!新しい恋に」
この酔っ払い女めと言い返しながら『私』はつられて笑う。胸がザワザワする。どうやら『私』も酔ってきたようだ。
二章へ
「え?」
いきなりの提案になにを言っているのか、一瞬わからなかった。
お見合いパーティー。興味はあったけれど、結婚にガツガツしてしていそうなイメージがあって、自分のプライドが邪魔をしていた。しかも提案をした香織とは『私』は年齢差がある。そんなイベントは、年齢制限だってあるだろう。同じ婚活パーティーに行くのは、少々無理があるのではないかと思うのだ。
「 これですよ。これ」
香織は、そういうとスマートフォンを鞄から取り出した。画面を何度かタップする。目的のサイトを見つけると、二本指で画面上で広げた。そこには、【大企業社長・上場企業、商社勤務・医師・歯科医師・年収六百万円以上の男性】という、タイトルが表示されている。
「これは嘘っぽいですよねー」
香織の感想に同感だ。こんな都合の良い条件なんかない。大体こんなに地位も金もある男が、お見合いパーティーになど頼ることはない。
同期の男の医師は、こんな条件の元に来る女なんて、金目的でしかないという話をしていたことを思い出した。自分ではなく『医師』という国家資格と結婚したいのだと力説していた。とはいえ、一部の馬鹿な医師は『医者だからモテる』と言っていたよな。当のあんたもそういってなかったっけ?『私』はその彼にそう告げると、彼は、「女医は頭のいいことを鼻にかけて、男を馬鹿にしてるよな。俺だってご免だし、周りの奴もそう言ってる」低能な捨て台詞を言ってその場を去っていった。
思い出すと、腹正しい男だ。医者としても使えないくせして。『私』はくだらない事を思い出して、大声で叫びそうになった。
「ちょっ、これみてくださいよ。料金のとこ」
香織は『私』の肩をバンバンと興奮気味に叩いた。画面を覗くと【男性料金三万円、女性料金二万七千円】とあった。場所は都内でも超有名な高級ホテルだ。
「こんなのみたことないですよ。大体が女性は無料か低料金ですもん。男性だって一万円は越えないし」
香織はそのパーティーの詳細を読み落とす事がないようにと、懸命に目で追っていた。酔いはとっくに覚めているようだ。そして、『私』も自分のスマートフォンを取り出し同じサイトにアクセスした。
「会社は初めて聞くようなとこですけど、私もそんな詳しくないですしね。レビューも悪くない。怪しいかもしれへんけど、行ってみる価値はありそうじゃないですか?」
「そうかもしれないけど、レビューなんて当てにならいよ」
香織の耳には私の声が届いていないようだ。なにやら楽しそうだった。
サイトの内容は、都合のいいことばかり書いてある。当たり前といえば当たり前だ。それを信じる人が世に中多いんだろうなと、素直な人が多いんだろうなとボンヤリ考える。同時に自分は、素直になれない腐り切った女なんだろうかと思った。
「申し込み完了ー」
「はっ?」
香織はニヤニヤが止まらない。
「次の次の土曜日ですよ。二人分申し込みしちゃいました」
いたずらな笑顔で登録完了画面を目の前に差し出した。その時『私』のスマートフォンにメール受信を知らせるサウンドが短く流れた。慌てて受信ボックスをあけると、登録ありがとうございました。料金確認しました。当日を楽しみに‥なんたらかんら‥最後の方の文章を読むまでもなかった。
「転送しましたよ。お金は私のカードから立て替えときました」
絶句だ。あの短時間で、そんなに早く打ち込めるのかという感心したのと、歳の差を痛感した。
「ちょっと、勤務どうするのよ?」
勝手に申し込むのは、百歩譲って良しとしよう。『私』も興味なかったわけではないし。その証拠に自分のスケジュールを思い出そうとした。
香織は花柄のシステム手帳を取り出しすと、挟んである綺麗に折りたたんだコピー用紙を広げる。この辺りも、香織のきっちりとした性格が表れていた。
「あ‥うん‥大丈夫ですよ。奈美恵さんは」
「私はって?香織ちゃんはどうなの?」
香織はウフフと一笑する。
「ガッチリ夜勤です。なので、奈美恵さんが行ってそこで彼を見つけて、その彼の友達を私に紹介する。料金は半分払いますから、私の為にも行ってきてください」
断わることが出来ないオーラが醸し出されていた。厄介な事に香織は本気も本気だ。
「勤務変わるわよ」
「ダメです。奈美恵さんは、前の日が夜勤です。私はその日は用があるので、勤務は変われません」
やけにハッキリ言う香織に、実は勤務予定を覚えていたのではないかと疑惑が浮かんだ。返す言葉を探している『私』を待ちながら、香織は人参を頬張った。
「わかった。でも、彼が出来るかは保証できないからね」
断わることが出来ない『私』が観念すると香織の目が輝いた。酒で口の中に残っていた人参を流し込むとちょっとむせながら、そうこなくっちゃと言わんばかりに、テーブルを三度叩く。
「奈美恵さんなら大丈夫。可愛いですもん」
なんだか素直に喜べない。開き直って『私』も大好きなすじ肉を口の中いっぱいに入れた。周りの目は気になりながらも、こうやって食べるのが好きなので、考えないようにする。
すじ肉にタップリと味が浸み込んで、油抜きも完璧。口の中でとろけてなくなる、まさに完璧なおでんのすじ肉だ。後に引く味をも最後まで堪能して、サッパリと冷たい酒で流し込む。あゝ美味しい。と、一呼吸おいた。
「確信犯でしょ?」
「確信犯の使い方間違ってますよ」
「それが転じて、分かってて悪い事するときにも使うの」
香織は大笑する。
「悪い事じゃないですよ。ねー大将」
カウンター越しにいた大将がガハハと笑う。
「さ、さ、奈美恵さん、乾杯!新しい恋に」
この酔っ払い女めと言い返しながら『私』はつられて笑う。胸がザワザワする。どうやら『私』も酔ってきたようだ。
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