唇が、覚えてるから
「外来からファイルを貰ってくるのはあなたでしょ!!」
「あっ……いけないっ!」
すっかり忘れてた……。
これは実習生が当番制で行う朝の仕事。
……ああ。
ここへ来るまでは覚えていたのに、どこで頭から抜けたんだろう……。
……視線を感じると、それは矢部さんで。バカにしたような笑みを浮かべさっと目を逸らされた。
"いい気味"
まるでそんな笑みに、絶対に私の失態に気づいてたはずだと察した。
……実習生同士なんだから、教えてくれたっていいのに。
「いいから早く行って取って来なさい!」
「はいっ!!!」
ダッシュでナースステーションを飛び出すと
「走らないっ!」
……また怒られてしまった。