唇が、覚えてるから

私が中山さんの幻想話に付き合うのを、快く思っていないのは知っていた。


「……でも、中山さん前より元気が出てきましたし、少しでも生きる力になってもらえたら……」


今日の昼食も、残さず綺麗に食べていた。

息子さんの話をして活力を出すことが、少しでも延命につながれば……。


反論するわけじゃないけど、患者さんのことを思ってそう口にすると。


「もういい加減にして!」


───バンッ!

声を荒げた橋本さんが、カルテを机の上にたたきつけた。


「……っ」


急に豹変した橋本さんに、面食らう。


……いい加減に……って……?


そして言われた意味も分からなくて、私は突っ立つだけ。

そんな私に睨みを利かせながら、橋本さんは言葉を浴びせ続けた。
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