唇が、覚えてるから

実習が終わったその日の夕方。

ただの高校生に戻った私は、ある決意を秘めていた。

これ以上私が、中山さんの私生活に関わるのはタブーだって知ってる。

でも、事実を知った以上。

せめて一言。


『中山さんの為に生きてください』

『どうか目を覚まして、もう一度中山さんの側に行ってあげてください』


どうしても中山さんの息子さんに伝えたくて。


意識が混濁していたとしても、まだ心臓は動いている。

言葉をかけたら、きっと、何かを感じとってくれるんじゃないか……って。


これが最後。

これで……終わりにするから……。
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