唇が、覚えてるから
いつものように、中庭へ向かう私達。
その間、会話はない。
前回の別れ方があんな風だっただけに、とても緊張する。
なんて言葉をかけていいか分からない上に、目だって見れない。
祐樹と一緒にいて、こんなに緊張したこと今までないというくらいに……。
半歩遅れて、祐樹の進む後に着いて行った。
「知り合い、もう退院してさ」
「……それは良かったね。おめでとう」
病院内で偶然でも見かけることがなかったのは、そういう理由だったんだ。
この間のことなんか忘れてしまったかのように普通に話す祐樹に、私はどこかホッとしていた。