唇が、覚えてるから

私の少し先で足を止めた祐樹は、ポケットに手を入れながら、何か考えるように下を向く。

……祐樹?


「けど……俺はあんまり良くない」

「……ん?」

「琴羽に会えなくなるから」


振り返った祐樹が、真っ直ぐに私を捉えた。


───トクンッ。

微かに胸が波打つ。


そして。


「これから毎日、こうして琴羽のこと、待ってていいか……?」


秋の訪れを感じさせる涼しい風の吹く空の下で。

ちょっと照れたように笑って祐樹は言った。


「えっ……」


驚いた私の髪を、その風がさらって行く。


「毎日、こうやって、琴羽に会いたい……」


緊張の糸がほどけていく心の中に、流れ込んでくる温かいもの。

祐樹がそう言う理由は分からない。でも私はためらいもせず。


「……うん……」


その言葉に頷いていた。
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