唇が、覚えてるから
私には、初日に走って転んで消毒液をぶちまける惨事を犯すという前科がある。
患者さんと一緒になって騒いで、他の患者さんからクレームが入ったこともある。
すでに"五十嵐は要注意人物"的な扱いをされているのは知っている。
なのに、またやっちゃった。
ああ……どうしていつもこうなんだろう。
一生懸命やっているつもりなのに、どうも空まわり。
こんなんで、本当に看護師になれるのかとよく言われるけど、そう思っているのは他でもない私。
やる気だけは誰にも負けない自信はあるのに……。
……へこむなぁ。
ナースステーション内の笑い声を背に、私は競歩選手に負けないくらいの早歩きで、外来まで向かった。