唇が、覚えてるから
届いた声
「ありがとうございます」
無事に外来からファイルを受け取る。
これはとても重要な書類らしく、毎朝実習生の2人が責任を持って、交替で病棟へ届けることになっている。
胸に抱えて元来た道を急ごうとした時───
「すみません」
行く手を阻むように、すれ違いざまに声をかけられた。
……私?……じゃないよね。
一度注意を向けたけど、違うと思いまた歩き出す。
けれど
「すみません」
また声がかかり、それは私に向けられたものだと今度こそ分かった。
あ……どうしよう。
……私、今時間ないんですっ。
……私を呼ばずに、他の人を当たって下さい。
……どうせ実習生だし、私に聞いても分からないですよ。