唇が、覚えてるから

「………あ」


けれど、そこには外来の診察場所しか書かれておらず、肝心の病棟については載っていなかった。


……どうしよう。

本気でわからない。


誰かに聞こうとしたけどみんな忙しそう。

適当に"あっちです"、なんて言ったらダメだよね……。


「……看護師さん?」


彼は怪訝な顔をして私を見ている。


「……あの、あのですね…」


冷や汗が出る。

少し考えた結果。


「すみません、分かりませんっ!」


頭を下げた後、さっきと同じ笑顔で正直に言った。

分からないことは正直に分からないって言うべき。


笑顔はどんなときだって最大の武器だ。

今までだって、どんな困難も笑顔で乗りきった。

だからそれに乗せて正直に言えば、わかってもらえ……
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