唇が、覚えてるから

「は?」


……なかった。

彼の顔がさらに険しくなって


「アンタ、馬鹿?」


私の好きな甘いハスキーボイスが、刺々しい言葉を放ったのだ。

…。
……。


「ばっ、バカ!?なんですかソレ!」


バカとは何よバカとは!

負けず嫌いの私はカチンときた。

ムキになって言葉を返す。


これでも必死に分厚い参考書をめくって、苦手な学科だって頑張ってるんだから!


「あ~」


すると、彼は何やら気付いた様子で腕組みをした。


「アンタ、タマゴか」

「タマゴっ!?」

「看護師の、タ・マ・ゴ」

「っ、」


私はこの言われ方が一番嫌い。

半人前にもなれてない。

まず、人間扱いされてないし。
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