唇が、覚えてるから
先輩は、私の突然の乱入にとても驚いたようだったけれど。
「そうなの。離婚してるから姓は違うけど、ハセガワユウキ君って言ってね、頭のいい、すごくしっかりした息子さんだったの」
そう、教えてくれた。
ハセガワ……ユウキ……?
思考が一旦停止する。
中山さんの息子さんの名前が。
……ハセガワユウキ……?
ユウキ……。
祐樹……。
…………え。
「五十嵐さん……?」
「……す、すみませんっ。お先に失礼しますっ…」
知りすぎたその名前に困惑しながら、日誌を閉じると逃げるようにその場を後にした。