唇が、覚えてるから
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「あー今日も疲れた!」
「私の担当患者の男の子、もうやんちゃで大変ったらありゃしない!」
「子供なんて可愛いじゃない。私は担当の先輩が超怖くて精神的にヤバイんだから」
「まー、それもこれもめぐりめぐるから仕方ないよねー」
寮に帰り、真理と希美がそんな話をする中、私は一人落ち着かなかった。
中山さんの息子さんの名前が……
"ハセガワユウキ"
頭の中で、その名前を繰り返す。
「琴羽どうした?お腹すいた?」
会話に入らない私に、真理が問いかけてくる。
「そうだ。今度の休みは久しぶりに3人で美味しいものでも食べに行かない?」
「いいねーそれっ!琴羽の好きなものでいいよ!」
「琴羽の好物は焼肉だよね。ダイエット中だけど琴羽に付き合うよ~」
「私デザートのタダ券持ってるし、それ琴羽使っていいよ!」