唇が、覚えてるから

失恋の痛手を気遣ってか、今日の2人は気持ち悪いほど優しい。

けれど私は失恋したことよりも、何か分からない大きな塊が胸の中に引っかかっている感じがして仕方なかった。

それに耐えられなくて、自分から口を開いた。


「……ねぇ。いつかの交通事故で意識不明になってる高校生の男の子覚えてる?」

「あー、あの患者さんね」


希美が軽くあいづちを打つ。

私は、詰まっていたものを吐き出すかのように言葉を紡いだ。


「先輩が話してるのを聞いたんだけど、その人、今日危なかったらしくて……で、驚いたことに樟大附の生徒なんだって……で、更に驚くことに、名前…ハセガワユウキ…って言うんだって」

「え?ハセガワユウキって、琴羽の……あ、ごめんっ」


言って、慌てて手を口に当てる希美。

確かに、思い出すから辛いけど……


「うん。同姓同名なんてビックリしちゃった。今は、まだちょっと勘弁な名前なんだけどね」


言って、苦笑いする。


「確かに珍しい名前じゃないけど、偶然にしてもすごいね」

「だよね……あ、やだ…」
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