唇が、覚えてるから
ポロッと涙がこぼれた。
同じ名前の人の話をしてるだけなのに……やだな。
それだけ本気で好きになっていたんだど痛感する。
あんな振られた方をしたけど、祐樹のことを忘れるには少し時間が必要かもしれない……。
「琴羽~、泣くな泣くな。そんな男のことなんて早く忘れちゃえ」
希美が私の頭を撫でてくれる。
そんなやり取りを黙って聞いていたのは真理。
ジッ……と、突き刺さるような視線と沈黙に、どこか違和感を感じて……。
ふと、首を振ると。
「琴羽」
私の名前を呼ぶ真顔の真理がいた。
……ん?
「良く、聞いて」
そして私の腕を掴んだ。
ハッとする。
真理の瞳には、なぜかうっすら涙がたまっていたから。
……どうし……たの?
真理は私の目を真っ直ぐ見たまま、静かに言葉を落とした。
「そのハセガワユウキって患者さん……。
……琴羽の知ってる、祐樹君だよ」