唇が、覚えてるから
───え。
その患者さん……て。
「やだ……」
声が出ない私の代わりに反応したのは希美だった。
「何言ってんの?そんなわけないじゃん。ねぇ?琴羽?」
「今も病院で眠り続けている彼はね……」
笑い飛ばすように言う希美の声を無視して、真理は続ける。
「……彼は……琴羽の知っている祐樹君で、……もう、意識が戻ることはないだろうって……」
「だから真理ってば……そんな冗談やめなよ」
真面目な顔してそんなことを言う真理に、希美は少し強めにたしなめたけど。
「……私あの後、智久君に会ったの」
「えっ!?」
希美が驚いたその名前は、合コンのメンバーだった男の子。
「やだっ、真理ってば抜け駆け……」
「───彼に聞かれたの。合コンの日に琴羽が言ってたのはどういうことなのかって」
ぴしゃりと言って、私と希美の顔を交互に見る。
「だって智久君の話では、祐樹君は事故に遭って、意識不明で入院してるって言うじゃない!」
「……」
「私だって混乱したし、どうしたらいいのか分からなかった。だって、こんなことあり得ないでしょ!?」