唇が、覚えてるから
君の姿
きっと、樟大附には"ハセガワユウキ"が2人いて。
交通事故に遭った"ハセガワユウキ"と、私が好きになった"ハセガワユウキ"は別人なんだ。
そうに決まってる。
だって。
温かかったじゃん。
祐樹の手も。
祐樹の唇も……。
だからそんなわけない。
そんなことあるわけ……
確かに祐樹は私の側に居たんだから………っ!
涙を飛ばしながら夜の道を駆け抜ける。
途中転んで膝をすりむいたけど、痛みなんて感じなかった。
視界は涙で揺らいで前なんか見えない。
それでも病院まで走り続けた。
この時間、もう面会は終わっているので入口も締まっている。
実習生の身分を利用して、私は裏口の通用門に回った。
出来るだけ人に見つからないようにして、なんとか5階の外科病棟までたどり着いた。