唇が、覚えてるから
消灯を迎えた廊下は、ほのかな明かりが点いているだけで薄暗い。
見慣れた廊下なのに、とても怖さを感じた。
一つ一つ病室の名前を確認していくと。
「……っ」
それは、奇しくも中山さんのいる病室からとても近かった。
もう一度、深い呼吸をしてから見上げたプレートには
"長谷川祐樹様"
そう書かれていた。
……違うよね?
"あの"祐樹じゃないよね……?
同じ名前だとこの目で確かめても、その想いは拭い去れない。
だって、そんなことがあるわけないんだから。
それでも……この扉を開けるのは躊躇した。
この扉の向こうに真実があるわけで……。
「ふう……」
私は違うと証明したくて、ここへ来たんだ。
ふたたひ深呼吸をして気持ちを奮い立たせると、少し震える手で静かに扉を開いた。