唇が、覚えてるから

この部屋は個室だった。

沢山の機械と、頭に包帯を巻き口にチューブを挿入された患者さんの姿が目に飛び込んでくる。


………違う……よね……?


ここからだと、それが誰なのかはまだ特定出来ない。

怖いけれど、震える足を一歩一歩ベッドへ近づけていく。

次に目に飛び込んできたのは、枕元に飾られていた色とりどりの千羽鶴。


その横に立てかけられてあった寄せ書きにも、目が行った。



“頑張れ、祐樹!”

“早く目を覚ませよ”

“みんな待ってるぞ!”



知っている名前があった。

哲平君、智久君、そして海翔君。

あの合コンメンバーの名前だ……。


……嘘だ、嘘でしょ……?


ドクンッドクンッ……。

一層脈は速くなり、やっぱり知りたくないと本能が叫ぶ。

ここからすぐにでも逃げ出したくなった。


けれど。引き寄せられるようにして振った首の先には、"彼"がいて。

否がおうでも、私の視界に映り込んだ。


頭には包帯を巻かれ。

顔に痛々しい傷をいっぱい作って。

口に太いチューブが挿入されているのは。



「………ッ」



私の知っている、"祐樹"だった。
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