唇が、覚えてるから




“…───琴羽…”


祐樹の声が聞こえた。


サラサラの髪の毛から覗く切れ長の瞳。

優しく私を見つめている。

優しく、私に微笑みかけている。


祐樹、祐樹……



「祐樹っ!」


大声で叫んで、気がついた。

そこには、心配そうに覗きこむ真理と希美の顔があった。


「琴羽、気づいた…?」

「祐樹っ!」


もう一度叫んでガバッと起き上る。  


「……」 


どこを見渡しても祐樹はいない。

私は仮眠室に運ばれたようだった。


「琴羽、残酷なこと言ってごめん……」

「こんなことって……どうなってるの……?」


私の手を握る真理の横では、希美が顔をくしゃくしゃにして泣いていた。


ああ……。

さっき見たのは、夢じゃないんだ。


ベッドに横たわる、祐樹の姿を思い出す。

私はまだ頭がよく働かず、そんな2人に何も返答できないままだった。
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