唇が、覚えてるから

悲しい告白



「祐樹、いるんでしょ!」


私は大声で叫んだ。

人気のない暗くなった病院の中庭で、四方八方を見渡しながら叫び続けた。


「祐樹っ!お願いだから姿を見せてよっ!」


絶対に祐樹は近くにいるはずだと、私は確信していた。


あんな状態の祐樹が、どういうわけかお母さんの前に毎日姿を現していた理由。

それはきっと、お母さんを元気づけるため。

今もきっと、すぐ近くで見守っているはずだから───

そう思った私は実習を終えて寮に戻った夜、再び病院の中庭を訪れたのだった。


この世の中で、こんなことが起こり得るのか分からないけど。

今はそんな理屈を考えている場合じゃない。

"私が祐樹の存在を知っている"そのことだけが、確かなものなのだから。
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