唇が、覚えてるから

何度も祐樹の名前を呼んだあと、シンと静まり返った闇の中で、私は神経を研ぎ澄ませた。

祐樹を感じられるかもしれないと思って。


───そのときだった。


真後ろに、スッ…っと人の気配を感じた。


「……っ」


振り返った先に、居た。

病室のベッドに横たわっている痛々しい祐樹じゃなくて。

私の知っている、祐樹が。


「祐樹っ!」


駆け寄って触れようとして。

その寸前で手を止めた。


……触れたら、消えてしまいそうで。


「……」


その手を取ったのは、祐樹だった。

"ちゃんとここにいる"

そんな言葉が聞こえてきそうな力強い手で、私の手を自分の頬に持って行った。
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