唇が、覚えてるから
初めてかもしれない、祐樹が自分からそうやって話すのは。
思えば、いつも私の話ばかり聞いてくれていたから。
私は祐樹の目を見つめたまま、深く頷いた。
「親父と母さんが離婚したのは俺が小3の時だった。俺は親父に引き取られたけど、母さんとは頻繁に会ってた。
母さんの病気が見つかったのは、俺が中2の時。手術を繰り返したけど、腫瘍は取りきれなくて。去年の冬頃からは覚悟しといてくれって医者に言われた。
俺は時間を作っては、ここに見舞いに来てた。いつものように母さんの見舞いに行こうとしてた時、俺…事故に遭ったんだ……」
あの、交通事故だ。
私でも知っている、あの痛ましい事故……。
本当に祐樹は、あの交通事故の被害者だったんだ……。