唇が、覚えてるから


私は、真理(マリ)と希美(ノゾミ)のやり取りを、どこかぼんやりと聞いていた。


交通事故か……。

ついさっきまで元気だったのに、訳もわからないまま命を落とすなんて。

無念だろうし、やりきれないだろう。

……遺された家族も。


「ちょっと、泣いてんの?」


真理が私を覗き込んできた。


「なっ、泣いてないしっ!」


知らないうちに涙が出ていたみたい。

慌てて目の縁に溜まった涙を拭く。


「……まぁ、そういう感情も大事だよ」


希美が私の肩にポンと手を乗せる。


「たしかに。涙流してられるのも今のうちだけだろうしね」

「ハッキリ言って、"ここ"はそんなんじゃ務まらない世界だし」

「イトコのお姉ちゃんだって、いつだったかお肉なんて一生食べれない!って言ってたのに、この間焼肉食べ放題でバクバク食べてたもんね。ちょっとすれば慣れるんだって」


2人は平然と言う。
< 2 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop