唇が、覚えてるから
私は、真理(マリ)と希美(ノゾミ)のやり取りを、どこかぼんやりと聞いていた。
交通事故か……。
ついさっきまで元気だったのに、訳もわからないまま命を落とすなんて。
無念だろうし、やりきれないだろう。
……遺された家族も。
「ちょっと、泣いてんの?」
真理が私を覗き込んできた。
「なっ、泣いてないしっ!」
知らないうちに涙が出ていたみたい。
慌てて目の縁に溜まった涙を拭く。
「……まぁ、そういう感情も大事だよ」
希美が私の肩にポンと手を乗せる。
「たしかに。涙流してられるのも今のうちだけだろうしね」
「ハッキリ言って、"ここ"はそんなんじゃ務まらない世界だし」
「イトコのお姉ちゃんだって、いつだったかお肉なんて一生食べれない!って言ってたのに、この間焼肉食べ放題でバクバク食べてたもんね。ちょっとすれば慣れるんだって」
2人は平然と言う。