唇が、覚えてるから

十分事実は突きつけられていたけど、祐樹の口から聞いて、初めてきちんと受け入れられた。

こんな話、冷静に聞いていられる自分がすごく不思議だった。

真理に聞いた時のように、嫌だとか、わめくこともなく。

……なぜか穏やかに。


「本当に三途の川があるんだよ。この世とあの世の境目。

俺はもう向こうに行くことが決まっていて、そこで最後に命ごいするんだけどさ、俺、そこでも母さんのことが気がかりでしょうがなかった。

俺が死んだなんて知ったら、母さんは気力をなくして、生きれる命もまっとう出来なくなっちまう。

母さんにとって、俺は自慢の息子だった。……生きがいだった。なのに、最後の最後に親不孝なんて嫌だろ。命が惜しいってより、母さんより先には死ねないんだ!…って訴えた」
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