唇が、覚えてるから

自分が死ぬかもしれない時まで、お母さんのことを……。


「母さんの余命は知っていた。だから、せめてそれまでは……って」


中山さんの言っていたとおり、祐樹は本当に心の優しい男の子だ……。


「……気づいたらさ、母さんの病室に立ってた。『また来てくれたのね』って、母さん笑ってんだ。

初めは何が起きたのか分かんなかった。でも俺は、事故に遭った自覚もあってICUで寝ている自分も確認した。

病棟歩いてても、誰にも俺のことは見えてないみたいだった。それでも母さんには俺が見えていた。

ああ……俺の願い、聞いてもらえたんだ……これが本当の神様からのプレゼントなんだなって思った」


本気で理解しようとしたら、とても難しい世界だった。

それでも、私は理屈抜きに祐樹の話を信じた。


でも、疑問が一つだけ……。

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