唇が、覚えてるから

「じゃあ…どうして私には祐樹が見えるの?」


周りの人には祐樹の姿は見えてないと言った。

それなのに、私には祐樹が見えている。

祐樹が許されたのは、お母さんとの時間。

私は祐樹と関わることなんてない人間だったはず。


「俺が、見えてほしいと強く願った相手だから」

「……強く、願った……?」


祐樹が頷く。


「試したんだ、あの日。本当に俺の姿は他人に見えないのか」


……あの日……?


「あっ……」


思い出した。

しつこく呼ばれた外来ロビー……。

無視し続けて、ようやく祐樹の声に振り返った私達の出会いを。


「なかなか振り返ってくれないから、やっぱり無理なのかと諦めかけたとき……琴羽は振り向いてくれた」


そう言って、祐樹は優しく笑った。

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