唇が、覚えてるから

祐樹が静かに言葉を落とす。


「………だから、

俺は俺の運命にのっとるしかないんだ…」


……祐樹?

その温もりが少し離れて。


「俺、琴羽といるのが楽しくて忘れかけてた。自分の立場も、今こうしている理由も……」

「……」

「バカだよな、俺……今更恋なんて出来るはずもないのに……」

「……」

「それに、俺の力じゃ所詮、母さんをどうしてやることも出来ないんだし…こんなことしてたって……」

「……」

「もうすぐ……母さん、死ぬんだ」

「えっ……」

「もう、これは俺にも止められないっ……」


そう言った祐樹は、辛そうに顔をそむけた。

今まで、見たこともないような苦しそうな顔で。


───分かるの?

祐樹には、お母さんの最期が……。


「……ああ」


驚く私の表情からそれを読み取ったのか、祐樹は頷く。


「こんなこと、わかりたくもないのにな」
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