唇が、覚えてるから
現実では理解しがたい世界にいるから?
だったら、尚更お母さんのそばに……。
「浮かれてた罰かな。だから、俺はもうこんなのやめにするよ」
「え…?」
「もう、母さんの前には行かない…」
「……っ、何言ってるの!?」
「俺が現れたせいで、母さんは幻覚を見る騒ぎになって看護師さん達にも迷惑掛けたし、琴羽も悩むことになった。結局、俺のしたことはただの自己満にしか過ぎなかったんだ」
「違うっ!」
私は思わず祐樹の腕を掴んだ。
「そんなのどうだっていいじゃない!祐樹が望んで与えられたチャンスなら、最後まで意志を貫いてよ!したい看護をすればいい、私にそう言ってくれたのは祐樹でしょっ!?」
向こうの世界のことは全く分からないけど
「祐樹が背中を押してくれたから、私だって思うままに中山さんに接することが出来たの。
でも、悔しいけど今はそれも出来なくなった。祐樹はまだそれが許されてる!だったら途中で投げ出さないでよっ!!」
まだ、それが出来るなら。
最後まで、お母さんの側に……。
もう一度、お母さんに笑顔を……。