唇が、覚えてるから
祐樹は面食らった様に私を見ている。
「お母さん、今必死で闘ってる。祐樹がそんな弱気でどうするの!?今こそ行ってあげるべきじゃない!!」
祐樹の両袖を少しきつく引っ張った。
──誰の為?
中山さん……?
祐樹……?
分からない……けど。
「今だって、祐樹が来るのを待ってる!」
うわごとは、決まって"タカシ"
それは祐樹のことだ。
私なんかじゃ、駄目なんだ。
親子という深い絆で繋がった2人だからこそ……
「祐樹……!」
祐樹がこうまでして、この世界に留まっている理由。
せっかく与えて貰ったチャンスを、私なんかが理由で、辞めないで……。
「……もう……出来ないよ…」
祐樹は弱く首を振る。
「祐樹。もう一度だけ、お願いだから……」
嘘かもしれないけど、中山さんが望んだことを目の前で見せてあげたいと思った。
私は祐樹の腕を掴んで言った。
「いいから一緒に来て……」