唇が、覚えてるから
「そう……ね。でもね……親っていうのは……いつまでたっても……子供が……心配で仕方がないの……」
優しい目を向けて、祐樹に向かって手を伸ばす。
……中山さん、祐樹の前ではこんな優しい表情をするんだ……。
「母さんが心配性なだけだろ……」
少し不器用に、その手を握り返す祐樹。
「ごめんね……祐樹の成長を見守ってあげられなくて。でも大丈夫……祐樹は必ず立派なお医者さんになれるわ……。お母さんはそう信じてる」
「……っ」
胸が痛くて張り裂けそうなのは、私だけじゃない。
嬉しいはずのお母さんからの励ましなのに、もう実現できないかもしれない……。
だって、祐樹は……。
「俺のことはいいから……もう……自分のことだけ考えろって……。……うっ……ああっ……」
下を向いて、歯を食いしばりながら必死に声を押し殺している祐樹の横顔に、私は嗚咽を我慢しきれなかった。