唇が、覚えてるから

「そう……ね。でもね……親っていうのは……いつまでたっても……子供が……心配で仕方がないの……」


優しい目を向けて、祐樹に向かって手を伸ばす。


……中山さん、祐樹の前ではこんな優しい表情をするんだ……。


「母さんが心配性なだけだろ……」


少し不器用に、その手を握り返す祐樹。


「ごめんね……祐樹の成長を見守ってあげられなくて。でも大丈夫……祐樹は必ず立派なお医者さんになれるわ……。お母さんはそう信じてる」

「……っ」


胸が痛くて張り裂けそうなのは、私だけじゃない。

嬉しいはずのお母さんからの励ましなのに、もう実現できないかもしれない……。

だって、祐樹は……。


「俺のことはいいから……もう……自分のことだけ考えろって……。……うっ……ああっ……」


下を向いて、歯を食いしばりながら必死に声を押し殺している祐樹の横顔に、私は嗚咽を我慢しきれなかった。
< 210 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop